Qubes OS 新規ユーザー向けガイド: qubeをどのように管理するか

更新日: 2023/05/28

このページはQubes OSの公式ドキュメントを翻訳したものです。訳者はただの素人なので誤訳等が含まれていると思います。あらゆる場合において英語の原文が優先です。誤訳等発見されましたら教えていただけると助かります。

人々がQubes OSについて初めて知った際の反応は、しばしば「本当に良さそう…だけど私はこれで何ができるの?」といったものになります。あなたがどのqubeを作り、それぞれのqubeで何をし、そしてあなたの管理手法がセキュリティや利便性の観点から利にかなったものであるかどうかについて、自明ではないかもしれません。

それぞれのqubeは本質的にセキュアな区画であり、それを好きなだけ作成して、それらを様々な方法で接続することができます。あなたの好きなように組み上げられるという意味ではレゴブロックのようなものです。ですがあなたが何を組み上げるのか知らない場合、この制約のない自由が困難となるかもしれません。これは何かを書くために座って白紙の文書に取りかかるようなものです。可能性には終わりがなく、どこから始めるべきか分からないかもしれません。

単一の正しい答えは存在しないため、どのようにqubeを管理すべきかを正確に教えられる人は存在しないのが真実です。正しい答えはあなたの要求、希望、設定によります。ユーザー毎に最適な設定は異なります。ですが、Qubesのユーザーや開発者へのアンケートやインタビュー、そしてQubesを何年も使用して得られた個人的な経験や知見を元にいくらかの実際的な例を提供することはできます。これらの例の一部を各々の状況に合わせて適用させることができるかもしれません。さらに重要な点としては、様々な決定の背後にある理論的根拠を確認することで、管理に関するあなたの決定に同様の思考を適用する手法を学ぶことができます。それでは始めましょう!

ソフトウェア開発者 アリス

アリスは異なる顧客のいくつかのプロジェクトで働くフリーランスの開発者です。プロジェクトは変化する要件と、よくあることですが異なるビルド環境を持ちます。アリスは別々のqube群をそれぞれのプロジェクトに用いています。それらは次のような命名手法で管理されています。

clientA-code
clientA-build
clientA-test
clientA-prod
projectB-code
projectB-build-test
projectB-prod
...

これはqubeの群をセットで管理するのに役立ちます。qubeのうち、いくつかはDebianテンプレートベースで、残りはFedoraテンプレートベースです。これはいくつかのソフトウェアパッケージが片方のディストリビューションでより容易に入手できるためです。アリスのセットアップは次のようになっています:

仕事が完了すると、アリスは成果品を送信し、その顧客のための働きが入ったqubeをバックアップし、そしてシステムから削除します。削除したqubeが必要になったり参照したくなった時はバックアップから簡単に復元できます。それぞれのqubeの中身は仕事を完了させた時のものと全く同じです。

調査報道の記者 ボブ

彼の調査と報告の一環として、ボブは頻繁に怪しげなファイル、しかもしばしば匿名の出所からのものを取り扱うことを強いられます。例えば、彼が取り組んでいるうわさに関したタレコミを称する添付ファイル付きのメールを受信するかもしれません。もちろん、彼はそれがコンピューターへの感染を狙ったマルウェアたり得ることを知っています。この手の怪しげなデータをセキュアに扱い、区画化された状態に保ちマシン全体に感染させられるリスクがないため、Qubes OSはボブにとって必要不可欠な物になっています。

ボブはすごい技術者ではありません。彼は重要な物事、つまり真実を明かにし、悪を暴き、潔白を証明し、社会の暗闇に光を当てることに注力するために、ツールはシンプルに保つことを好みます。彼の意識はコンピューターが技術的にどのように動作するのかということに自然と引き寄せられたりはしませんが、人々はしょっちゅうハッキングされ、彼の仕事の性質は彼をターゲットにしうるということを理解しています。彼は情報源や同僚、家族、そして彼自身を守りたいと思っています。そしてコンピューターセキュリティーがその重要な一部であると理解しています。彼は仕事専用のQubesラップトップを使用しており、それには次のものが含まれています:

同僚が彼のQubesシステムのセットアップを手助けし、どのように使用するか教えました。ボブの作業方法はシンプルで一貫していたので、彼のqubeの管理方法は多くを変えず、彼もそれで問題ありませんでした。同僚は彼にいくつかのシンプルなルールを覚えておくよう言いました;より信頼された/より信頼していないqubeへテキストファイルをコピーや移動させないこと;表示された時にシステムを更新すること;定期的にバックアップをとること。ボブは新しいソフトウェアを試したり設定を調節したりする必要がないので、コマンドラインを使用することなく普段の作業を行うことができます。

投資家 キャロル

キャロルは熱心に働き、身の丈にあった生活をしているので、出費を節約し、節約したお金を将来のための投資にまわすことができます。彼女は経済的に独立し、場合によってはいつの日かアーリーリタイアすることを望んでいます。そしてこれを達成する最良の手は、長期に渡って投資し、投資と仕事を両立することであると判断しました。しかし、彼女の国の消費者金融保護法について調査した後、消費者が盗難や詐欺に遭った際の法的な保護が存在しないことを学びました。保険や保護を提供する様々な企業は金融機関の破綻にのみ回復を保証しており、これは個人の顧客がハッキングを受ける状況とはかなり異なります。さらには、多くの金融機関が独自のサイバー犯罪ポリシーを持っていますが、顧客がハッキングを受けた際(金融機関に対してではなく)に弁償を明示的に保証するものはきわめてまれです。

キャロルは泥棒が彼女が頑張って稼いだ資産をどのように盗もうとするのか念入りに調べ、その結果、彼女が考えもしなかったようなあらゆる手段があることを知り、驚きました。例えば、彼女はどんな泥棒でも最低限彼女の口座からお金を送金する必要があると考えていました。これは妥当な仮定に見えます。ですが彼女は「pump and dump」攻撃について知りました。これは泥棒がいくらかの株を買い、その後一般の人々の証券会社のアカウントに侵入し、そして被害者の残高を用いて同じ株を買います。株価は上がり(pumping)、泥棒は株を売る(dump)ことができ、価格の下がった株を持つ被害者が残されます。この場合、お金は被害者の口座から入出金すらされていません。株の売買に使用されただけです。この様な時には新しい銀行口座の追加を防いだり送金時に追加の承認を求めたりする安全策は被害者の資産を守る役に立ちません。そしてこれはほんの一例です!キャロルは既知の、特定の攻撃に対する安全策で十分だと仮定できないことをはっきり理解しました。彼女はセキュリティについてより基本的なレベルから考え、それを徹底的に彼女のデジタル生活に落とし込む必要がありました。

学習の後、キャロルは彼女独自のサイバーセキュリティについて考えることを決めました。彼女は他の人々を頼れませんでした。確かに、殆どの人々は単に一般的な民生の技術を使い、それに満足しているかもしれません。ですが彼女は殆どの人々が失うものをそれほどは持っていないことを思い出しました。彼女が自分の未来をつかもうとしていること、特に政府による救済がないかもしれず、また証券会社によるサイバーセキュリティに関する曖昧な安心させるための宣伝文句に法的拘束力がないことを知ることはリスクではありません。なのでキャロルはコンピューターセキュリティについてさらに学び、最終的にWebで「最もセキュアなオペレーティングシステム」と検索した後でQubes OSに偶然出会いました。彼女はそれがどのようにデザインされ、そしてその理由について学びました。全ての技術的詳細についてすぐに理解したわけではありませんが、基本原理であるコンパートメント化によるセキュリティは直感的に理にかなっていると感じ、技術的な側面についてさらに学ぶと、これが探していたものだとさらにはっきり理解しました。今日では、彼女のセットアップは次のようになっています:

追加: キャロルは新しい金融技術を探索しています

キャロルの財産の大多数は分散・低コスト・パッシブ型のインデックスファンドです。ですが、最近彼女は暗号通貨に興味を持ち始めました。彼女はまだ信頼の置ける投資方法の道に留まっており、新しい財産の形、特にお金の流れを生まなかったり詐欺や無謀な投機に頻繁に結びつくようであるものには常に懐疑的です。しかし、彼女は長期のリスク管理の観点、特にある種の政治リスクに対する予防策として、彼女の資産の一部をセルフカストディ(自己保管)する可能性を見つけました。

キャロルの友人達は暗号通貨がひどく気まぐれで、ハッキングや盗難が一般的な出来事である旨警告しました。彼女は同意し、リスクについて勉強し失ってもどうにかなる額以上には投資しないと伝え安心させました。

キャロルはQubesの構成に次のものを追加しました:

キャロルは口座明細書、確認書、スプレッドシート、暗号通貨ウォレットといった重要なものが含まれる全てのqubeとパスワードマネージャー保管庫を確実にバックアップしています。追加のストレージ容量がある場合は、テンプレートとさらにはBitcoinフルノードqubeもバックアップしますが、彼女はそれらを後で再作成して必要なものをインターネットからダウンロードできると知っているので、時間やストレージ容量がないときはそれらをスキップします。

結論

今日出会った人々は架空のものかもしれませんが、あなたのような実際のユーザーの要求を代表しています。あなたはあなた独自の要求がこれらの一つ以上と重なっていることを見つけたかもしれません。この場合、異なる例が、あなたのQubesシステム全体の中でのある程度のサブセットを形作るのに有用だと気付いたかもしれません。また、あなたはおそらくそれらの中には共通点があると知ったでしょう。殆どの人々は例えば電子メールを使う必要があるので、殆どの人々は少なくとも一つの電子メールqubeとそれに適したtemplateが必要になります。ですが、全ての人々がSplit GPGを必要とするわけではなく、全ての人々が同じ電子メールクライアントを求めているわけではありません。他方では、ほぼ全ての人がパスワードマネージャーを必要とするでしょうし、それをオフラインの、ネットワークから隔離された保管庫で動作させることは常に理にかなっています。

Qubesでの経験が増えるとともに、我々の架空の友達が下したいくつかの決断に同意できないことに気付くかもしれません。ですがそれは構いません!Qubesシステムを管理する方法は数多くあり、最も重要な規範は所有者のニーズに対応することです。全員のニーズは異なるため、物事を違ったやり方で行っていることに気付くのは完全に正常です。にもかかわらず、殆ど全てのユーザー、特に使い始めのころに有用だと気付くいくつかの一般的な原則が存在します。

あなた独自のQubesシステムをデザインするに当たって、ケーススタディから得られる次の教訓を意識してください: